恋愛しない結婚
それに、他の店に行けなんて、冷たい。
「女が一人で安心して夜中まで飲める店なんて少ないんだから、仕方ないでしょ」
「だったら早く男作れよ。男作って結婚でもすれば仕事でどれだけ若い男前と親しくなっても誤解されないし、こんな夜遅くまで酔っ払う必要もないだろ。心配してる俺の事も考えろ」
「簡単に言うけど、今から相手を探して結婚なんて、そんな気の長いこと考えるだけでうんざり。仕事も忙しいし、男を見つける余裕なんてありません」
「仕事がどれだけ忙しくても、この店で飲んで酔い潰れる時間はあるくせに」
「な、なによー」
そんなにきつい口調で言われなくても、自分の状況は自分が一番わかってる。
三十路女が一生懸命仕事に励んでプライベートを犠牲にしても、手元に返ってくる幸せなんてほんの少しだ。
恋人や家族と一緒に育む幸せには敵わないってわかってる。
だけど、恋人もいない今の状況で生きていくためには、仕事を一生懸命にこなして稼いでいくしかないんだから。
一生懸命仕事をする延長線上には、強固な男性社会があって、私はその中に飛び込んで男性と並んで仕事をするしかない。
生活がかかってるんだから、そりゃもう必死に仕事をしているだけなのに。
『砂川さん、仕事しながら結婚相手を探してる』
『見た目いいのに独身って、どこか悪いんじゃない?』
若い女の子達の悪意が満ちた噂の中でイライラとする日々を送っている。
あぁ、わずらわしい事から解放されて、ひたすら仕事に集中したい。
一人で生きている私は、そうしなきゃ生活できないんだから。
「結婚したら、仕事もスムーズに進められるのかな……。だったら早く結婚したいな」