恋愛しない結婚
翌日。
夕べ飲み過ぎた私の体調は最悪だ。
二日酔いと寝不足のせいで笑顔を作ることもできない。
「絶対あの男のせいだ……」
どうにか出社し、机でブラックコーヒーを飲みながら午前中の打ち合わせの資料を眺めていた。
本来なら午前中は頭を使わない仕事を片づけたいところだけれど、打ち合わせが続く今日はそんな甘い考えは捨てなきゃいけない。
とりあえず午前中さえ乗り切れば、なんとかなるか。
「砂川さん、コピー何部ですか?」
「うっ……」
突然聞こえた大きな声に、二日酔いの頭が痛む。
今にも机に突っ伏しそうになりながらも気力だけで振り向くと、私のサポートをしてくれている葉山くんが立っていた。
私が教育担当して育てた二年目。
まだ学生にも見えるかわいい見た目にも関わらず、確実で優秀な仕事ぶりが評判となり、女子達の争奪戦が激しいと聞いている。
「あぁ、その資料なら10部コピーしてくれるかな」
頭痛に顔をしかめながらなんとか指示する私に、葉山くんは苦笑しながら肩をすくめた。
「また輝さんの店で飲んでたんですか?」
私の様子に驚くこともなく、それどころか「そんなことだろうと思って」と言うと、慣れた仕草で私の机に置いてくれたのは鎮痛薬。
それも私が机にいつも放り込んでいる鎮痛薬と同じもの。
本当、いつの間にそんなことにまで気付いたんだろう。
「はは……。情けない」
あると思っていた鎮痛薬がきれていて、お昼休みにでも買いにいこうと思っていた私は、葉山くんが置いてくれた薬を素直に手にとると、机の上のペットボトルの水で一気に飲み込んだ。
「ありがとう。本当に、気が利くね。葉山くんならきっといい旦那さんになるよ。女の子達のターゲットになってるのも無理ない」
軽く笑ってみると、複雑そうな表情の葉山くん。
私の言葉に納得できないようだ。