妖精と彼








二人で並んで歩いて帰る。
姉さんは今日大学で起こった面白かった出来事を話してくれる。



その時間は、いつも俺にとって癒しだった。








帰り道の途中で、いつも通っている桜並木に差し掛かる。
今は5月半ばの新緑の季節だから、もう桜の花びらは全て散ってしまっている。






長い直線道路の両端に、均等な間隔で植えられた桜の木。
いつ植えられたものかは分からないけど、幹はすでに立派な太さに育っている。






その中でも、特に立派な幹の桜が何気に目に入った。
ふとその桜の木に目を向けた瞬間、「何か」を見た気がした。







「………?」








しかし、次の瞬間には何もいなかった。



人のような姿をしていたと思ったけれど、まとう雰囲気や「オーラ」と呼ばれるようなものが、人間のものとは違うように感じた。






それに、一瞬で消えた……。
桜の木の近くを見ても、誰も通っていない。
やっぱり、人ではなかったようだ。







少し立ち止まって、桜の木をマジマジと見てみる。
…でも、もう何も見えない。






「…………」






姉さんが俺の様子を見て、声をかけてきた。



「愛?どーしたの?その木に何かあるの?」




「……何でもない。」






そう返事をすると、姉さんはまた元気に歩き出した。
隣を並んで歩き出しながら、もう一度だけ、桜の木を振り返った。






やっぱり、何も見えなかった。












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