妖精と彼
『わたしが、こわいですか…?』
「……………」
俺は返事をしなかったけれど、彼女には俺の疑いに気付いていたんだと思う。
困ったように、苦笑いをした。
『でもわたしは、あなたのりかいしゃになれると、おもっているんです。』
返事をしなくても、さくらは独り言のように喋った。
『わたしは、あなたのみえるものが…おなじようにみえる。あなたのきもちに、きづくことができる。』
『それって、あなたにいちばんちかいところに、わたしはいます。わたしとあなたは、ちがうけれど……きっとほかのひとよりも、にている。』
さくらはそう言ったけれど、俺には意味がよく分からなかった。
「………俺には、君が言っていることがよく分からない。」
『……それでも、いいです。』
さくらは、美しい笑みを浮かべて頷いた。
風が吹いて、目を細める彼女。
桜の花びらのように繊細で儚い雰囲気が、よく似合う。
しかし、風にさらわれていくのは花びらで、その樹木は決して揺らがずにそこにある。
そんな桜の儚さと強さの両面を体現したかのような、桜の妖精。
その美しさに、俺は見とれた。