妖精と彼
なんとなく気まずさを感じた俺はさくらから目を背けた。
ポツリとつぶやいた俺を見て、さくらが困ったように笑う気配がした。
『……ふふっ、いじっぱりです。』
ちょっと鼻で笑われた気がしてムッとした。
「俺は意地っ張りなんかじゃ…!」
勢いよく視線をさくらに戻すと、さくらは優しく笑っていた。
とても、キレイな笑顔で。
『やっぱり、いじっぱりだ!』
さくらは嬉しそうに笑ったあと、俺の手元にそっと視線を下げた。
さくらの視線の先ーー
俺も自分の手を見つめた。…特別目立った傷がついているわけではない。
深刻そうな顔をしているさくらと目があった。
『……あいさん、て、いたくないですか…?』
「………………。」
俺は自分の手を見つめ、手を握ったり開いたりして異常を確認した。
問題なく動くし、異常はないようだ。
大丈夫だと返事をしようと、さくらを見たとき……俺はギョッとした。
さくらは、俺が返事をしなかった時間に良くない想像でもしていたのか、泣く寸前みたいだった。
大きな瞳に涙がたまっているのを見つめ、困惑した。
「さ………さくら、…?」
動揺のあまり、声が震えた。