妖精と彼
『…………はい、なんでしょうか?』
「…ごめん。俺なら大丈夫だから。」
それを聞いたさくらは、涙のたまった瞳でジトッと俺を見てきた。
どうやら、疑われているらしい。
『………ほんとうですか?』
「うん。大丈夫だよ。」
右手をヒラヒラと振りながらそう返事をすると、さくらはホッとしたように微笑んだ。
『よかった、』
さくらのその綺麗な笑顔に、不意にドキッとした。
お花のようで…とても可愛らしいと、さくらを見るほど思う。
そして、俺はさくらと約束をした。
それは、『今後は片腕一本分の距離を必ずとること』。
誤って触れてしまわないように。
俺が、さくらが、お互いを失ってしまわないように……。
その約束が、破られることは一度もなかった。
そうして優しいゆるやかな時間と共に、俺たちの日々は過ぎた。