嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
『やめて…っ、翔太…!』
あの時エリカが発した悲痛な声が、押し込めた記憶の底からまざまざと蘇ってくる。
嫌がって抵抗する彼女を抑えてけて、俺は何度も自分の欲望をぶつけた。
孕んだって構わないって、暴力的な感情だけで。
(…嘘、だろ)
「その子の、父親は」
「…それ、あなたに言う必要ある?」
「父親は誰なんだ」
「しつこいから」
「いいから言え…っ!」
「誰が父親かなんて、あなたには関係ない」
二年前、一方的な別れの言葉を告げて俺のもとを去ったのは、エリカの方だ。
俺を捨てたのは、忘れられない初恋の相手がいる地元に行きたかったからだと思っていた。
でももし、妊娠して一人で産むつもりだったのなら?
東京に頼れる人がいなかったのなら、実家を頼るしかないだろう。
別れる一か月前から、エリカは俺に大事な話があると、会いたいと、何度も訴えていた。
喉が詰まるように息苦しくて、後悔の念が心に溢れてくる。
あの時エリカが俺に伝えたかったのは、別れ話なんかじゃなかった。
(…その子は、俺の…)
エリカに別れを選ばせたのは、紛れもなく…俺自身だ。