嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「…寧々は私の子ですから」
エリカは表面上は平静を保ちながら、押し殺したような声を発した。
(…“ねね”…)
エリカの腕に抱かれた寧々という女の子が、つぶらな瞳で俺を見続けている。
その時こみ上げた気持ちは、もう理屈じゃ言い表せなかった。
さっきはじめて会ったばかりなのに。
…俺は名前すら愛しいと感じてしまった。
「…エリ、」
「じゃ、じゃあお疲れ様でした」
手を伸ばそうとした俺の手を避けるように、エリカは寧々を抱いたまま踵を返したかと思うと、全力で走り出していく。
「おい…待てよ!」
エリカは子育ても仕事も、ずっと一人で頑張ってきたんだ。
今さら、俺なんかに頼りたくないのはわかってる。
本当のことも言いたくないのならそれでいい。
お前が言ってくれるまで、俺はいくらだって待ってやる。
…だけど。
せめて、そばにいることぐらいは許してほしい。
「……!」
何かに躓いたのか、俺の目の前でエリカの身体が大きく傾いていく。
自分を犠牲にしてでも、あの二人のことを守りたいと、まるで息をするように自然に思った。
投げ出した足がコンクリートに擦れて、わずかな痛みを生み出す。
全く躊躇することなく、俺は二人のことを衝撃から庇っていた。