嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「子供を抱っこしたまま走る母親がどこにいるんだ…!」
つい強い口調になってしまったのは、本当に心の底から心配したから。
エリカは自分の腕の中にいる寧々が無傷だとわかると、華奢な身体を震わせながら何度も謝っていた。
…自分のことを後回しにして子供の心配をするところが、とても母親らしい。
「お前は?どこもケガしてないか」
先程とは打って変わって優しい言葉を投げかけると、エリカは気まずそうに小さく頷いていた。
触れている部分が、だんだん熱を持ってくる。
このまま抱きしめてしまいたい衝動を、俺は理性を総動員して抑え込んでいた。
思いつめたような表情で、エリカは俺の様子を伺ってくる。
「二年前何があった」
「それ、は…」
「あんな別れ方したくせに、何で…」
“なんで、俺との子供を産もうと思ったんだ”
そう聞こうと思っても、口には出さなかった。
エリカには、寧々を産まないという選択肢もあったはずだ。
でも今ここに、寧々は存在する。
それがきっとエリカが出したの答えなんだと思ったら、わざわざ聞く必要もなくなった。
俺はエリカに、どんなに感謝しても足りないだろう。
タイミングよくくしゃみした寧々に、自分のマフラーをぐるぐるに巻きつけてやる。
それを大げさだと笑ったエリカの顔を見たら、気持ちが溢れて止まらなくなってしまった。
「…してくれ」
「え…?」
「俺と結婚してくれ」