嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
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「準備できたか?」
「ちょっと…もう、勝手に入ってこないで!」
「だったら鍵開けとくなよ。無用心だな」
当たり前のように部屋の中に入ってきた俺のことを、エリカは遠慮なく嫌そうに見つめてくる。
そのいつもとは違う幼さの残る雰囲気に、俺はつい口元を緩めてしまった。
「…まだ準備終わってないんだから、こっち見ないで」
「別に、化粧しなくても対して変わらないだろ」
「それ、絶対嫌味だよね」
俺を一瞥してドレッサーに向かったエリカは、忙しなく肌に化粧品を塗りこんでいる。
本当にすっぴんの方が、化粧している顔よりずっといい。
あの顔で恥ずかしがって上目遣いで見つめられたら、そのまま押し倒したくなる。
こんな隙だらけの顔、…俺以外の男には絶対見せたくない。
「わー!しょうちゃんおはよっ!」
「おはよう、寧々」
俺を見るなり飛びついてきた寧々を、俺は軽々と高く持ち上げる。
「外寒くなってきたから、俺の車で保育園行こうな」
「うん!!」
エリカが熱を出して寝込んだ日以来、俺はこうして毎日寧々の送り迎えを買って出ている。
「あの…橘マネージャー。毎日送ってもらうのは、さすがに悪いんですけど…」
「そろそろインフルエンザが流行る時期だろ。こんな寒空の下、寧々を歩かせるつもりか?」
「……それは」
もう寧々のためにジュニアシートも購入してあるから、エリカも文句は言えないはずだ。
「いいから遠慮なく俺を使えよ。どうせ、ほとんどシフト一緒なんだから」