嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
第八章 意地と困惑の夜
セール前日の金曜日、俺はまだ挨拶にすら回っていない、近隣店舗の巡回に追われていた。
俺が担当する店舗は、もちろんエリカのいるところだけじゃない。
むしろ今回のヘルプだって、平泉さんに無理やりお願いして実施させたものだったりするので、通常の業務もどこかに組み込まなければならなかった。
「橘さんが担当になるって聞いて、スタッフ全員喜んでますよ。社報に顔写真付きで載ってるの見た時から、みんなかっこいいって騒いでて…。実物もモデルさんみたいですね~」
「…いえいえ」
こんな風に悪目立ちするから、社報に写真を載せるのは嫌だって全力で拒否したのに…。
もちろん人事異動のページに写真を入れようとゴリ押ししてきたのは、言わずもがな平泉のオヤジだ。
エリカが見て気づきやすいようにと言われたから仕方なくやったが、あれは絶対こうなることを見越してやったに違いない。
結局どこの店舗でもまず最初に穴が開くほど視線を向けられて、仕事の話もあまりスムーズに進められなかった。
明日からセールのため、エリカは今日遅くまで残業する予定だと聞いている。
二十二時過ぎにやっと仙台に戻ってから連絡してみたが、エリカからの返信はない。
もしかして、まだ店にいるのか?
どことなく不安になった俺は、巡回から帰ったばかりの足を、マンションではなく店に向けていた。