嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
聞こえてきたのは、今まで聞いたこともないくらい、冷たくて低いエリカの声。
俺でも思わず息を飲んでしまったぐらい、本気で怒ってるのが伝わってくる。
「は…、店長…自分が何言ってんのか、ちゃんとわかってますぅ?」
「うん。てかこの際だから、はっきり言わせてもらっていいかな」
顔は笑顔を浮かべているのに、エリカは淡々と白鷺の悪いところを指摘していく。
俺はさっき、エリカが白鷺の条件を飲んでしまうんじゃないかと心のどこかで思っていた。
自分のためではなく、店を守るために。
だけどそれはどうやら俺の杞憂だったらしい。
俺が守ってやらなくとも、エリカは自分で正しいことを主張できる。
もう十分一人で立って仕事の出来る人間に成長していた。
「マジあったまきた!じゃあ言われた通り、今日で辞めてあげますね!」
思い通りにならなかったことが悔しかったのか、白鷺はそう言い捨てながらこちらに向かってくる。
扉を開けたところに俺が立っているのに気づいた彼女は、顔をくしゃくしゃに歪めたかと思うと、泣きながらその場を立ち去って行った。
…俺も、大概ひどい人間だと思う。
泣いている女よりも、何事もなかったかのように作業しているエリカの方に駆け寄りたくなったのだから。