嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
別に…エリカの言葉を鵜呑みにしたわけじゃない。
社会人になってから、常に色んなストレスに晒されて吸い始めてから、一度も欠かしたことのないタバコ。
俺はその日の風呂上りも寝る前も口にすることなく、なぜかすんなりと眠れてしまった。
(俺も単純な男だな…)
本当に禁煙したからといって、エリカが戻ってくる保証なんてどこにもない。
翌日も吸うことなく早朝に家を出て、何食わぬ顔で出勤してくるだろうエリカを事務所で待ち伏せる。
どうしようもなく苛々すると吸いたくなるのに、今はその気持ちの片鱗すら感じられない。
やがてガチャ、と扉の開く音が聞こえ、俺はその一点をじっと見つめていた。
疲れた顔で中に入ってきたエリカの瞳が、驚愕で大きく見開かれる。
「おい…逃げるな!」
踵を返して走り出したエリカの背中に向かって叫びながら、俺はあっと言う間に追いつき、逃げ道を塞ぐ。
息を乱したエリカを見下ろしながら、その華奢な腕を掴みあげる。
やっと捕まえた。もう逃がさない。
「一緒に来い」
観念したエリカを引きずって、再び事務所の中に戻っていく。
…全く。こんなに手のかかる女は初めてだ。
「俺に嘘つくとはいい度胸だよな。おかげで休みの日なのに朝六時起き。…お前どう責任とるんだ?」