嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
送り迎えの時に、もう何度も車に乗せている。
それなのにエリカは口を引き結んだまま顔を赤面させていて、俺の視線に耐え切れず両手で顔を覆いつくしてしまった。
よく見れば耳まで真っ赤だ。
「お前は…もう、…なんでこういう時に…」
とうとう俺にまで、エリカの恥じらいが伝染してくる。
大きなため息を吐いた俺は、もじもじしているエリカの身体を、軽く抱き上げていた。
「…誰にも見られたくないから、そのまま顔隠しとけ」
こんな色っぽい顔を他の男に見られたら、また変な虫が寄ってきかねない。
そっとエリカをシートの上に乗せて、恭しくベルトまで付けてやる。
「…すみませんね。誰にも見られたくない程変な顔してて」
運転席に乗り込むと、エリカはいつもの調子を取り戻してきたのか、唇を尖らせながらそんな憎まれ口をきいてきた。
「ああ。なるべく俺以外の男の前では見せない方がいい。…お前隙だらけだから、すぐ食われるぞ」
あの夜だって、相手が俺じゃなかったら間違いなく最後までヤってる。
「た、橘マネージャーが…一番危険だと思いますけど」
「バカ言え。俺程安全な奴はいない」
好きな女がこんなに近くにいても、理性を総動員させて極力触れないように心がけている。
「…そんなこと言って、私なんかを助手席に乗せたら怒る女の人とかいっぱいいるくせに」
エリカが何を勘違いしてるのかは分からないが、そんな風に勘繰られるのはものすごく心外だった。
「そんな奴ひとりもいない」
たとえいても相手にしたりしないと、エリカには胸を張って言える。
「…嘘ばっかり」
「この車の助手席に乗せたのは、寧々とお前の2人だけだ」