嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
ポケットから取り出したタバコに火をつけて吸い始めても、苛々は収まりそうにない。
煙を燻らせながら、俺は自分の中の感情の正体にはっきりと気づいていた。
別の男の話をする忌々しい唇を、今すぐ塞いでしまいたい衝動に駆られる。
俺のことだけを見てろって、無理矢理にでも言うことを聞かせたくなる。
「私9年間も片思いしてたんだよ?すごくない?」
無理して笑う結城に、俺は鋭い視線を投げかけ続けていた。
これはもう、紛れもない“嫉妬”で。
顔すら見たこともないその男に、俺は激しい焦燥を抱いていた。
「…でも、もういいんだぁー」
そろそろ酔いが回って来たのか、結城の語尾が妙に間延びしている。
「何がいいんだよ」
「今日は橘マネージャーに褒められたし、別にいいのー。忘れる」
嘘つけ。
またそうやって俺の前で強がって、家に帰ったら一人で泣くんだろ?
そんなこと絶対にさせたくない。
俺以外の男のことなんて、一瞬たりとも考えさせたくない。
聞いたくもない男の話を延々と聞かされてたのに、急に笑いがこみ上げてきて俺は口元を覆った。
…こいつのことが好きなんだって気持ちが、型に嵌るみたいに、ストンと俺の中に落ちてきたから。