嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「運転中なんだから、前向いてっ」
「じゃあ信じろよ」
何度言ってもなかなか信じようとしないエリカの瞳を、俺は隣からじっと見据える。
「これからも他の女は乗せない。その席は寧々とお前だけのものだ」
「わかったからっ、もう前向いて!」
もう湯気が出そうなくらい、リンゴみたいに真っ赤に染まったエリカの顔を盗み見て、俺は口元が緩みそうになる。
込み上げてきた笑いを必死で堪えている俺のことを、エリカは恨めしげな目で見つめていた。
…しょうがないだろ。さっきから可愛くて、可笑しくて、自分でも呆れるほど、これから一緒に過ごせることに浮き足立っている。
「ほら、これ足にかけてろ」
信号待ちで後ろの席に用意してあったブランケットを取り出し、それで剥き出しになった白い足をそっと隠してやる。
エリカはいつもスカートが短めのものが多いから、用意しておいてよかったと心から安堵した。
(…はっきり言って目の毒だ)
車の中は密室で、もちろん距離も近いし、どうしてもその辺りに目がいってしまう。
隣に座っているエリカに必要以上に疚しい気持ちを抱かないためにも、もったいないが足は隠してもらう必要があった。
そんな俺の気苦労も知ることなく、エリカは俺が車を走らせている間じっと外の景色に目を向けている。
…緊張してる?まさか。
ハンドルを握り締めた俺の手は、ほんの少しだけ湿っていた。