嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「俺、お前にどんなことした?」
「キ…キスと…、あとちょっと…身体触られたぐらいだから。別に…気にしてない」
結局バカ正直に話してしまうエリカに、俺は必死で笑いを堪える。
…そういうところが、愛しくて仕方ない。
じゃあなんで怒ったのだと問いかければ、エリカはまた黙り込んでしまった。
覚えたないフリをした俺に、エリカがあんなに怒った理由。
やはり都合のいい解釈しか出来なくて、口元が緩んでしまう。
「…なんで俺を名前で呼んで、受け入れようとした?」
こんなに追い詰めたら可哀想だと思いつつも、俺は追求することを止められずにいる。
「き、…気持ちよかったから。久しぶりで、ちょっと…流されちゃっただけ」
にも関わらず、ついにエリカは涙目でそんなことを言い出してしまった。
これは、…流石にヤバイ。
「今は、そういうことにしといてやる」
声が裏返りそうになるのを必死で抑えながら、目の前で縮こまるエリカに向けて言い放つ。
「…とりあえずこれ、離して」
ふいっとそっぽを向いてしまったエリカの肩を、俺は無意識にぐっと押さえ込む。
「お前だけずるいだろ。俺は覚えてないのに」
「…は?」
「もう一回キスしてやるから。…目瞑れ」
我ながらめちゃくちゃな理由だと思った。
「……だ、め」
拒まれても顔を近づけたのは、エリカの言葉と表情が、傍目からでも分かるほど裏腹だったから。
「んっ、…しょう…」
エリカに名前で呼ばれると、どうしようもなくゾクゾクする。
「キスだけで終われるか。…俺だって二年も我慢してるんだ」
赤く色付いた唇を蹂躙しながらそう告げれば、エリカは情欲に濡れた瞳で俺を見つめたまま、ゆっくりと肩に手を伸ばしていた。