嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
従業員入口の近くに車を寄せた俺は、中で待っているはずのエリカに、着いたことを伝えるメッセージを送る。
だけど数分待っても、エリカが現れる気配はない。
(何やってるんだ…?)
ため息をつきながら、なんとなく反対車線の雑踏の中に目を配せると、なぜかそこにエリカの姿があるのを見つけてしまった。
「あいつ…寒いから中で待ってろって、あれほど言ったのに…」
ブツブツ文句を言いながら、スマホで電話の発信動作を行う。
その時目に飛び込んできたのは、スーツを纏った随分長身な男の後ろ姿で。
エリカはその男と何か話している最中だからなのか、掛かってきた俺の電話を躊躇することなく切ってしまった。
「…は…?」
そればかりか、エリカは男の方にスマホを差し出し、まるで連絡先を交換するよう促しているようにも見て取れる。
いくらなんでも、進んでナンパしてきた男と交流を持とうする馬鹿ではないだろう。
じゃあ…知り合いか?
ちらっと見えた男の横顔は、エリカよりも年上に見える。
しかもなぜかやたらと親しげに見えるから、俺の心にはモヤモヤとしたものが立ち込め始めていた。
今すぐ降りていって、腕を掴みここまで引きずってきたい。
でも寝ている寧々を一人で車内に置いていくわけにはいかない。
エリカがその男と笑って手を振りながら別れるまで、俺はハンドルを握り締めながらじっと傍観していることしか出来なかった。