嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
やがて俺の車の存在に気づいたエリカが、ようやくこちら側の歩道に戻ってくる。
「遅くなっちゃてごめんね~…」
後部座席のドアを開け。開口一番能天気な声を掛けてくるエリカ。
すやすや眠っている寧々の様子を確認すると、目尻を下げながらやっと俺の方に顔を向けていた。
「のんびり何やってたんだ」
つい責めるような口調になってしまったのは、エリカと知らない男が親しげに会話するのを見た直後だから。
「ご、ごめん…実は」
エリカはいいわけでも考えているかのように、俺から目を背けなんとなく言いにくそうに言葉を濁している。
中にいろという言った約束を破ったことについて言及し始めると、エリカから俺に向けて信じられない言葉が発せられていた。
「…なんか橘マネージャーってお父さんみたい…」
その瞬間、稲妻に打たれたような衝撃が走る。
父親ほど年が離れてるわけでもないのにオヤジ扱いされて、俺は少なからずショックを受けてしまった。
「さっきの人は知り合いで…」
「知り合い?」
過剰に反応した俺に対して、エリカが顔を引きつらせている。
「あんな歳の離れた奴が知り合いだっていうのか」
「知り合いっていうか幼馴染だから。それに、ひろくんは二十八歳で、橘マネージャーより一つ年下だけど」
幼なじみという言葉に、俺の視界が急速に暗くなっていく。
俺がエリカに対して抱える、最大のコンプレックス。
そんな男の名前なんて、エリカの口から聞きたくはなかった。
「…なるほど。お前の初恋の奴か。随分出来すぎた偶然だな」