嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「出張中らしいよ。本当、すごい偶然でびっくりした」
エリカが嘘を言っているような様子はない。
でも俺の心には、何か得体の知れない不安が広がっていた。
***
「食えば」
エリカがシャワーを浴びている間に温め直した夕食を、ダイニングテーブルの上に並べる。
一瞬きょとんと目を丸くしたエリカは、俺の様子を伺うようにして、恐る恐る手を合わせていた。
「…いただきます…」
どうやらエリカは、余程お腹が減っていたらしい。
俺にじっと見られていることも気に止めず、あっと言う間に結構なボリュームのすき焼きを平らげてしまった。
「ごちそうさま。はー、やっぱり橘マネージャーは料理上手いね」
お腹をさすりながら笑うエリカを見て、さっきまでささくれ立っていた心が温かくなってくる。
「…どうだ。俺と結婚したくなったか」
「な、ならない…」
エリカの表情に、一瞬だけ迷いのような色が生じた気がする。
ここまでエリカが頑なになる理由は何なんだ?
つい焦ってしまった俺は、次の瞬間、別に聞きたくもないことをエリカに問いかけてしまっていた。
「じゃあ、…また好きになったのか」
「えっ?」
「確か結婚してるんだろ。あの幼馴染。もういい加減諦めろ。あんな優男が好みとか、お前趣味悪すぎだろ」