嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「……早く出ればー?」
翔太の名前を見て固くなっている私のことを、美月が横から肘でつついてくる。
エレベーターの中でなんて、会話が丸聞こえになるだろうから出たくない。
全く鳴り止もうとしないスマホを握り締めたまま、私は一階に到着するのをじっと待ち構えていた。
「別に橘マネージャーとエリカが何話そうが、気にしないのに」
「私が気になるの!」
呆れ顔の美月に反論しながら、エレベーターを早歩きで降りる。
後ろにいる美月を気にしながら電話に出たせいか、最初の声がなんだか不自然に上擦ってしまった。
「は、はい」
『……』
「……翔太?」
電話に出たはいいものの、翔太からは何も反応が返って来ない。
一瞬通話が切れたのかと勘違いしたけど、ディスプレイにはちゃんと通話中と表示されていた。
「ねぇ、……どうしたの?」
『……はぁー……』
「……え、なにっ?……」
いきなり聞こえてきた深いため息の音に驚いて、全身がビクッと反応する。
翔太の行動に虚をつかれた私は、その場で一人どぎまぎしてしまった。
無言とため息によるダブルの圧力が、私の肩に重くのしかかってくる。
(もしかして私……なんかやらかした?)