嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~

「……早く出ればー?」


翔太の名前を見て固くなっている私のことを、美月が横から肘でつついてくる。

エレベーターの中でなんて、会話が丸聞こえになるだろうから出たくない。

全く鳴り止もうとしないスマホを握り締めたまま、私は一階に到着するのをじっと待ち構えていた。


「別に橘マネージャーとエリカが何話そうが、気にしないのに」

「私が気になるの!」


呆れ顔の美月に反論しながら、エレベーターを早歩きで降りる。

後ろにいる美月を気にしながら電話に出たせいか、最初の声がなんだか不自然に上擦ってしまった。


「は、はい」

『……』

「……翔太?」


電話に出たはいいものの、翔太からは何も反応が返って来ない。

一瞬通話が切れたのかと勘違いしたけど、ディスプレイにはちゃんと通話中と表示されていた。


「ねぇ、……どうしたの?」

『……はぁー……』

「……え、なにっ?……」


いきなり聞こえてきた深いため息の音に驚いて、全身がビクッと反応する。

翔太の行動に虚をつかれた私は、その場で一人どぎまぎしてしまった。

無言とため息によるダブルの圧力が、私の肩に重くのしかかってくる。

(もしかして私……なんかやらかした?)

< 244 / 259 >

この作品をシェア

pagetop