嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~

翔太の部屋に忘れ物した覚えはないし、仕事にもちゃんと間に合った。

その上最高の売り上げ高まで記録したっていうのに、翔太を怒らせるようなことといえば……今朝黙って出て来てしまったことぐらい。

でも翔太は熟睡してたし、私だって起こす暇もないくらい焦ってたし……。


「あの……翔太」


恐る恐る名前を呼んでみたけど、返事はやっぱり返って来ない。


「今朝のこと怒ってる?……でもわざとじゃないからね。本気で初売りに間に合わないかと思って、私も必死で……」

『閉店業務は終わったのか』


今まで無言を貫いていた翔太が、突然ぶっきらぼうにそう言い放つから、私の沈みかけていた気持ちが一気に浮上する。


「お、終わった!今終わって帰るとこ!」

『じゃあ早く外に出てこい』

「え」


意味を聞き返す暇もない。

そのまま一方的にぶちっと通話を切られてしまった私は、ぽかんと口を開けたままその場に立ち尽くすしかなかった。


(そ、外に出てこいって……まさか)


「エリカどうしたの?もしかして橘マネージャーの声聞いただけで、寂しくて会いたくなっちゃった?」

いつの間にか追いついていた美月が、私のことをそんな風に面白おかしく茶化してくる。

それに全く反応できないほど、私の心は激しく動揺していた。

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