嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
翔太に名前を呼ばれて、一番に反応したのは私じゃない。
「ちょっと、“エリカ”だってー。呼び捨てキター!!……橘マネージャーさぁ、私のことなんか全然見えてないんじゃない」
「……っ」
美月は絶対に、この状況を楽しんでるに違いない。
耳まで真っ赤に染まった私の横で、頼んでもいないのに実況を続けてくれていた。
そうこうしているうちに、翔太の気配がすぐそばまで迫ってくる。
カツンカツンと地面を蹴る革靴の音だけが、私の耳にはなぜか鮮明に聞こえていた。
「今日、疲れただろ」
「……あ……、うん」
わざわざ仙台まで来てくれたというのに、私はなんでこんなに素っ気ない返事しかできないのだろう。
ゆっくりと前を伺うように顔を上げれば、結構近くに翔太の顔があって、頭の中がボンと音を立てて爆発しそうになってしまった。
……いまだに、あれは夢だったんじゃないかと疑いたくなってしまう。
私って本当に、こんなにぶっちぎりにかっこいい人から、プロポーズされちゃったわけ……?
「車乗れ」
「……え?」
「マンションまで送るから」
当たり前のように言い放つ翔太から、私は隣に佇んでいる美月へと視線をスライドさせていく。
そこにはお腹を押さえながら、必死で笑いを堪えている親友の姿があった。