嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
美月の言葉に、私はただ呆然としてしまった。
「ちょ、美月?さっきは歩いて帰るって……」
「気が変わったの。ラブラブな橘マネージャー見てたら、私も彼に会いたくなっちゃった」
「……!」
どこをどう見たらラブラブに見えるのか、私にはわからない。
一瞬沈みかけていた翔太の目の奥に、はっきりと何かがみなぎっていた。
「ああ。じゃあな相沢。気をつけて帰れよ」
「わ……っ」
いきなり翔太に腕を掴まれた私は、ずるずると引きずられるようにして車の前まで移動させられていく。
「(健闘を祈る!)」
口パクでそんな事を伝えてくる美月に、私は開いた口が塞がらなくなってしまった。
こんなあからさまに気をつかわれると、なんだかいたたまれない気持ちになってくる。
「おいエリカ、何してるんだ。早く乗れ」
車中から翔太に急かされた私は、慌てて後部のドアを開ける。
上質なカバーで覆われた座席に腰を下ろすと、運転席にいる翔太から刺さるような視線が私の方に向けられていた。
「こういう時は……助手席だろ」
「……あ、ごめん。なんか、つい癖で……」
助手席に乗ったのは、まだたったの一回きり。
そこにはずっと寧々が座っていたのだから、間違えてしまうのも無理はない。
二人きりの空間になれなくてもじもじしている私の腕を、翔太は臆することなく前の席から引き寄せていた。
「……あ……」
腰に腕が回されて、そのまま強制的に助手席に移動させられてしまう。
身を乗り出してきた翔太の顔をなんとなく注視していたら、なぜかそのまま流れるように唇を奪われてしまった。