嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
喫煙室を出て、やっと重苦しい空気から解放され溜息をついた。
スマホを無造作に操作して、さっきのメールを削除する。
“昨日どこにいたの?”
知り合いからでも何でもない、ただの迷惑メール。
学生時代から無駄に目立っていたせいで、こういうものの標的にされることは多かった。
個人情報も勝手に回されていたし、差出人のわからない悪戯メールは日常茶飯事のようなもの。
だからこんな嫌がらせには慣れている。
…でも。
「最近、多いな…」
ここ半年間の間に、メールの量は明らかに増えている。
もちろん対策もしているが、しょっちゅうアドレスどころかドメインまで変えられて送られてくるし、防ぎようがない。
自分がアドレスや携帯を変えても、なぜかおさまる事はなかった。
妙な気配がしたこともある。
家に入る時に感じる、まとわりつくような強い視線。
車のフロントガラスに、やけにベタベタと指紋が付いていたこともある。
気のせいならそれでいい。
今までは、自分の身なら自分で守ることができたから。
…でも今は…。
浮かんでくるのは、周りまで明るい雰囲気に巻き込んでしまう屈託のない結城の笑顔。
半年前といえば、ちょうど出会った時期だけに、俺の中でも嫌な胸騒ぎが起こる。
平泉のオヤジには知られてるけど、結城とのことは、周りにはまだ安易に知らせない方がいいかもしれない。
煙草を吸えなかったせいも相まって、俺はどうしようもない苛立ちのようなものを感じていた。