嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「…痛いから離して」
強気な言葉でも、どこかで虚勢を張っているように感じる。
握り締めたエリカの腕は、微かに震えていた。
「じゃあ逃げるな」
「逃げてない。…忘れ物しただけ」
「どうして連絡しなかった」
「…別に。わざわざ返すような内容だとは思わなかったから。正直面倒くさくなった」
急に話題を変えても、エリカは淀みなく答えてくる。
…じゃあ、今までは嫌々返信してたってことか。
未だにこちらをを向かないことが、更に俺を腹立たせていた。
「店にも…来なかったよな」
「それは…気が変わって。…遠いとこ、わざわざ行く必要もないなって」
「そうか」
どんなに遠い場所にいても、俺はエリカに会うためならどこへだって行ける。
気持ちの違いがはっきりとわかる言葉を投げつけられて、暗い海の中に落とされたような気分になった。
掴んでいた腕を緩めた瞬間、強張っていたエリカの肩から力が抜けていく。
でも次の瞬間、俺は思いきり肩口を引っ張っていた。
「きゃ…っ!」
ずっと後ろを向いていたエリカの顔をこちらに向かせて、両肩を押さえつける。
そのまま背中を壁に押し付けると、エリカは困惑に揺れる大きな瞳を俺の方に向けていた。
「…ちょっとなに?ここ店なんだけど」