嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~

たった今突き放されたのに、顔を見た瞬間どうしようもない愛しさがこみ上げてくる。

まさか五歳も下の女にここまで振り回されるなんて、一年前の俺には想像も出来なかったことだろう。

「じゃあどこならいい。ホテルか?」

「…最っ低」

「断るなら、ここで無理やり抱く」

「……っ」

そんなつもりはないのに、半ば脅しのようなことを言った。

俺から目を逸したエリカの頬が赤くなり、その瞳が何かを思い出したように揺れる。

こいつに快楽を教え、植え付けたのは俺だ。

たとえ心が離れても、身体だけは絶対に離さない。

「…売り場行くから。もう離して」

「駐車場で待ってる。…仕事終わったら連絡しろ」

「…嫌」

「は?」

「橘マネージャーの車は嫌。…乗りたくない」

「何言って…」

「いつものホテルでしょ?それなら近いし歩いてく。…部屋の番号だけ後で連絡しといて」

そう言ったエリカの横顔はどこか寂しげで、何か諦めに近いものを感じる。

それは、はっきりとした拒絶だった。

俺に関わるのはあの空間だけにしたいと、エリカは線を引いている。

胸の痛みと共にせり上がってくる息苦しさに、気づかないふりをした。

どうせもう、俺の望んだ関係なんて手に入らない。

ダンボールを持ち直して売り場に出ていくエリカの姿を、俺は熱のこもらない冷たい瞳で見つめていた。

< 62 / 259 >

この作品をシェア

pagetop