嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
たった今突き放されたのに、顔を見た瞬間どうしようもない愛しさがこみ上げてくる。
まさか五歳も下の女にここまで振り回されるなんて、一年前の俺には想像も出来なかったことだろう。
「じゃあどこならいい。ホテルか?」
「…最っ低」
「断るなら、ここで無理やり抱く」
「……っ」
そんなつもりはないのに、半ば脅しのようなことを言った。
俺から目を逸したエリカの頬が赤くなり、その瞳が何かを思い出したように揺れる。
こいつに快楽を教え、植え付けたのは俺だ。
たとえ心が離れても、身体だけは絶対に離さない。
「…売り場行くから。もう離して」
「駐車場で待ってる。…仕事終わったら連絡しろ」
「…嫌」
「は?」
「橘マネージャーの車は嫌。…乗りたくない」
「何言って…」
「いつものホテルでしょ?それなら近いし歩いてく。…部屋の番号だけ後で連絡しといて」
そう言ったエリカの横顔はどこか寂しげで、何か諦めに近いものを感じる。
それは、はっきりとした拒絶だった。
俺に関わるのはあの空間だけにしたいと、エリカは線を引いている。
胸の痛みと共にせり上がってくる息苦しさに、気づかないふりをした。
どうせもう、俺の望んだ関係なんて手に入らない。
ダンボールを持ち直して売り場に出ていくエリカの姿を、俺は熱のこもらない冷たい瞳で見つめていた。