嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
絶望と悲壮の入り混じった感情が交錯する。
「……」
結局あれから一人でホテルの部屋までやってきた俺は、すぐさま浴室へ向かい散慢な動きでコックを捻った。
頭から熱いシャワーを浴びれば、耳の内側でずっと反芻されていたエリカの言葉が、どんどん押し流されていく。
とめどなく流れるお湯の音は、その雑音を振り払うのにちょうど良かった。
―――一体、どれくらいの間そうしていたのだろう。
遠くの方からチャイムの音が聞こえたことに気がついて、俺はようやく出しっぱなしだったシャワーを止める。
適当に身体を拭いてドアを開けると、複雑そうな表情を浮かべたエリカがそこに立ち竦んでいた。
「早く入れよ」
俺を見るなり俯いてしまったエリカは、機械のようにぎこちない動きで部屋の中に足を踏み入れてくる。
大して気にすることなく冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、部屋の隅に突っ立ったままのエリカと視線がぶつかった。
その顔は、心なしか頬の辺りが赤い気がする。
「…何か着て」
「……?」
「上!何か一枚ぐらい羽織って!」
確かに俺は上半身は裸のままで、腰にはバスタオル一枚しか身につけていない。
…こんなの今さらだろ。
今から何をするのかなんて、わかりきってることなのに。
相変わらず顔を背けたままのエリカは、もう耳の方まで真っ赤に染まっている。
なんで、何とも思っていない男の前でそんな反応を見せる?
ただでさえささくれ立っていた俺の心は、エリカの可憐な仕草に大きくかき乱されていた。