嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
クリスマス当日の東京に、珍しく雪が降った。
定時で仕事に区切りをつけた俺に、平泉のオヤジは意味深な笑みを浮かべるだけで、特に何も聞いてくる様子は見られない。
おそらく、俺の決意に薄々勘付いているんだろう。
あの人のデスクの中に結婚式のスピーチの指南書がすでに準備されている事を、俺は知っていた。
慣れない雪道を慎重に運転していくが、渋滞でなかなか前に進んでくれない。
仕方なく車を駅のパーキングに停めた俺は、まだ動いてる電車に飛び乗ってエリカの店の最寄駅を目指す。
シフトでは早番になってたけど…クリスマスだから、多少は残業していくよな?
エリカの上がりの時間にギリギリ間に合うかどうかというところだが、俺は大して焦っていなかった。
会ったらまず今までのことを謝って、それから自分の本当の気持ちを伝えよう。
俺はもうずっと、頭の中で今日のことをシュミレーションし続けてきた。
今まで一人の相手にこんなに必死になったことなんてない。
だから、自分の中でエリカがどれだけ大切で大きな存在か今はよく分かる。
駅が近づくに連れて、大きくなっていく胸の鼓動。
ドアが開いて、身体が人の波に押し流されていく。
多くの人で賑わった駅の構内の中へ、俺は夢中で駆け出していた。