嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~

スーツに付いた雪を払いながら、女性客で賑わいをみせる店の中へ向かっていく。

視察に来る時でさえ、俺はエリカの出勤日を避けていたから、ここで会うのすらかなり久しぶりだ。

逸る気持ちを抑えながら、店内をぐるりと見渡す。

だけどどこにも、エリカの姿は見当たらない。

おかしいなと思いつつ、俺は佐伯店長の接客が終わるのを待って、後ろから声を掛けていた。

「お疲れ様です、佐伯店長。結城はもう上がりましたか?」

「…橘マネージャー!」

突然俺に声をかけられて驚いた佐伯店長が、大きく目を見開いている。

でも気まずそうに眉間に皺を寄せたかと思うと、黙りこんで俺から視線を逸らしてしまった。

「佐伯店長…?」

「…本当に、あなたには何も言わないで行ったんですね」

「…え…」

言われた言葉の意味がわからなくて、思わず佐伯店長の顔を覗き込む。

彼女の重々しい雰囲気に、俺は何だか嫌な予感がした。

「申し訳ありません、橘マネージャー。…彼女にどうしてもと言われて、今月のシフトは変更しないまま本社に報告しました。…明日には、訂正するつもりだったんですけど…」

「どういうことですか?」

「結城さんは、今まで溜まっていた分の有給を消化するため、今日から長期の休みを取っています。そうでないと三月には今までの有給が消えてしまうので」

「長期の休み…?なんで…いきなりそんなものを取る必要が」

自分の声が震えていたような気がする。

すーっと胃の底から冷たいものがこみ上げてくるのを感じた。

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