嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
「来年の四月から、仙台に新店がオープンするのはご存知ですか?」
「…知っています」
「結城さんは、春からその店に異動する予定です。そこのオープニングスタッフとして」
「…は…?」
頭に雷が落ちたような衝撃が走る。
そんな報告は誰にも受けていない。
もし知っていたら、平泉のオヤジが真っ先に俺に言ってくるだろうから。
「東北地区のマネージャーに声を掛けられただけなので…まだ本決まりではないんです。正式に社内へ内示が出るのは、おそらく年明けでしょう。それでも結城さんは、ギリギリまであなたには知られないように、周りに口止めしていました。わざわざこの時期に有給を取ったのは、早めに仙台に帰って環境の準備を整えるためです」
「……」
目の前が一気に暗くなっていく。
ふらついた足元をかばうようにして、俺は商品の乗ったステージの上に片手をついていた。
「正直結城さんが抜けることには反対でした。…でもあの子、ここのところずっと憔悴しきっていて…。慣れ親しんだ地元で働きたいと言われたら、私も無理に引き止めることは出来ませんでした」
佐伯店長の表情が寂しげに歪んでいく。
そうさせたのは俺だと思うと、急激に胸の辺りに痛みが集まってきた。
「橘マネージャーと何があったのかは聞きません。あの子はもうここを離れると決意したんですから」
「…じゃあ、エリカは…」
「今日の十九時発の新幹線で、…東京を発ちます」