嘘つきより愛を込めて~side Tachibana~
弾かれるように時計を確認すれば、十九時までもう三十分もない。
…間に合うか…?いや、もうそんなこと考える暇もない…!
「橘マネージャー!」
佐伯店長の静止を振り切って、俺は店を飛び出していく。
息を切らすほど夢中で走って駅に着いた頃には、雪ですっかり髪が濡れてしまっていた。
「…くそ…!」
電光掲示板を確認すれば、さっきまで動いていた電車が、雪で完全に不通になっている。
行き場を失った人の群れを掻き分けてタクシー乗り場に向かえば、そこにはすでに長蛇の列が出来ていて、俺は愕然とした。
(…エリカが…行ってしまう…)
何一つ誤解を解けないまま。
最低なことをしておいて、一方的に連絡を絶った俺のことを、憎んだまま。
スマホを取り出し、震える指先でエリカに電話をかける。
『…おかけになった電話番号は現在使われておりません…』
無情なアナウンスが流れた瞬間、俺は人でごった返す駅の前で立ち尽くしてしまった。
「…エ、リカ…」
掻きむしりたくなる程の胸の痛みを感じて、小さく息を吐き続ける。
思い描いていたものとはあまりにもかけ離れた現実を、俺は頭のどこかで信じきれずにいた。
「……!」
握り締めていたスマホか僅かに震えて、俺ははっと顔をあげる。
送られてきたメッセージは、待ち望んだエリカからのものだった。