その店
その店
そんな話をどこで聞いたのか
ぼんやりとしか思い出せない。
「何でも願いが叶うらしい」
「その店でかい?」
コソコソと話す男たちの声
場末の酒場通り
折れた腕をかばいながら
私はゴミ箱の隙間に小さくなり
自分自身の気配を消していた。
「そんな話があったなら、世の中みんな金持ちだらけだろうさ」
「いやいや、向こうも相手を選ぶらしい。店の扉が開く奴と開かない奴がいるそうだ」
「裏がありそうだな」
「ああ、願を叶えてもらう代わりに、こっちも覚悟を決めて何かを差し出すってさ」
「何を差し出す?」
「そんなの知らん」
「頼りない話だ。店の宣伝だろうが」
「だろうなぁ」
その話はそこで終わり
男達は笑いながら次の話題に花を咲かせ、私の前を通り過ぎて行く。
あぁ
その店なら
私も知っている。
< 1 / 18 >