ドーナツが好きってだけだけど(仮)
「これ、良かったら…食べる?」
努めて笑顔を作ってそう言うと、内田くん
は丸い目を少し細めた。
「ありがとう、貰うよ」
砂糖がたっぷりかかったあんどーなつを
受け取って私の隣に腰掛ける。
内田くんは通学用鞄の他に、キルト地の大
きな袋を手に下げていた。
そこから二本の棒針がのぞいている。
私の視線に気付いたのか、キルトの袋を膝
に置き中身を見せた。
「これ、手芸教室で使ってる材料なんだ。
これはまだ編みかけ」
「わぁー、すごい。網目が綺麗だね」
袋の中にあったまだ編み途中であるもの
の出来栄えを見て、素直に感嘆の声が漏
れる。
裁縫には詳しくないけど、これはかなり
丁寧に編めていると思う。
棒針の他に茶色と群青色の毛糸、色とり
どりの糸、綿、布切れ、名前を知らない
ものまでいろんなものが入っていた。
「内田くんって器用だね。作るの好きな
の?」
「うん、ばあちゃんの影響でね。
教えて貰ううちに趣味になったんだ。
編み物だけじゃなくて、パッチワーク
とかクロスステッチとか…いろいろや
るんだよ。
でも今は編み物が一番好きかな」
内田くんは照れ臭そうに言った。
男子で編み物……それは人に言うのは
ちょっと恥ずかしいだろうけど、
好きなものを好きだとはっきり言える
ことが羨ましい。