溶ける温度 - Rebirth -

美弥が泣き出したぐらいの時間からもう2時間経っていて、時計は23時を回ったところだった。
今日は木曜日だからか、お客さんは私一人になっている。


「マスター、今日は何時まで?」


肩肘をカウンターにつき、軽く顔をそれにもたれかけさせながら、向かいでグラスを磨く彼にたずねる。

私が今いるこのお店、アヴァンシィは創作居酒屋でありながら、夜深くなるとバーへと様相を変える。
なので閉店時間が明記されてない。この気まぐれなマスターの赴くままに、ラストオーダーが決まるのだ。

そんなマスターは、グラスを拭く手は止めぬまま、視線をこちらにちらっと向けるとまたグラスに戻した。


「明季が出ていったら終わりだな」

「圧力はんたーい」

「さっさと飲んで出てけ」


美弥がいた時とは打って変わったドライな態度を全く隠す気はないらしい。
まあ、私とマスターの間には、営業スマイルなんて必要ないんだけれど。

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