溶ける温度 - Rebirth -
「まあ。今日は特別サービスだ。お前の気が済むまで、店開けといてやるよ」
帰りたくないという表情が出てしまっていのだろうか。失敗した、真さんを困らせたくはなかったのに。
そしてその表情さえも出てしまったのか、真さんはため息をついて持っていたグラスを棚に置いた。
「明季。もう営業時間外だ。俺のプライベートな時間だよ。だから、ゆっくりしてけ」
「……マスター」
「もう、マスターじゃねぇだろ」
「…うん、ありがとう真さん」
素直にお礼を言えば、明日は雪か?と冗談を言う真さんは美弥と一緒でやっぱり優しい。
確かに昨晩は悲しくてやるせなくて怖くて逃げだしたくて、もう明日なんて来なくてもいいなんて思ってたけど。
こうして人の温かさに触れるだけで、生きててよかったと思える。
私は本当に恵まれてる。こんなにも時にやさしく時に厳しい人たちに囲まれて、幸せだ。
うっかり美弥のように涙腺が緩みそうになったけれど、ここは泣くまいとして、半分ほどになっていたマティーニを飲み込んだ。