放課後~君とどこへ行こう~(短編集)
1、かぼちゃの正しい使用法
『かぼちゃの正しい使用法』

「かぼちゃなんかなぁ、中身くり抜いて捨てるよりかぼちゃの煮付けとかにしたほうがずっと有用やし美味しいに決まってんねん。ようあんな勿体ないことするわ。アホちゃうか」
 大学の帰り道。彼女はずっとそんなことをぶつくさ言っていた。今日英語研究サークルで作ったジャック・オ・ランタンがいたく気に入らないらしい。
「日本であんまりハロウィンやらん理由が今やっと分かった気ぃするわ。日本人はかぼちゃの正しい使い方をよう分かっとったんやな」
 物知り顔でうんうん頷く彼女に秋彦は思わず吹き出しそうになる。彼女は多分気付かれていないと思っているんだろうけど――、秋彦は彼女がかぼちゃの使い方に文句をつける理由を知っているから、彼女のこの発言がおかしくて仕方がなかった。
 ここでもし俺が、"そんなわけあるか"とか 言ったらすかさず張り手が飛んでくるんやろうなぁ、と考えながら少々慎重に口を開く。
「まぁまぁそんなに言うたりなよ。絵美が散々文句言いよったから部長が明日くり抜いたかぼちゃの中身つこてスイートポテト作ってくるって言うてくれはったやん。それって十分有効利用やろ。それに案外海外かてなんか作ってるかもしれへんし。あんな美味しいもんみすみす捨てる国なんてそうあるかいな」
 「そりゃそうかもしれんけどぉ……」と、まだ渋る気配を見せる彼女に秋彦は少し意地悪心が疼いた。本当に素直じゃないよなぁ。笑いを噛み殺しつつ秋彦は何でもないことのように爆弾を投げた。
「絵美はジャック・オ・ランタンが嫌なんじゃなくて、単にかぼちゃの煮付けが好きなだけやろが」
 彼女が目に見えて固まった。その様子を見てまた吹き出しそうになる。秋彦が自分の好物を知っていたことを知らなかったせいもあるのか、その後彼女は気まずそうに俯いて何やらボソボソ呟いた。小さくてよく聞こえなかったけ れど、多分「知ってたんやったら最初っから言えや」とか何とか。
 この期に及んでまだ恨み言かい、と苦笑しそうになったとき、ふと俯いた彼女の髪からわずかに覗く肌が目に入った。その肌の色は秋の早い日の入りの中でもはっきりと分かるほど赤く染まっていて――、
 あぁもうなんだよ畜生、可愛いなぁ!
 自分でトドメを刺しておきながら、秋彦は何かの罠に嵌められたような複雑な気分になった。
< 1 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop