放課後~君とどこへ行こう~(短編集)
5、超絶空論~反論編~(超絶空論番外編)
『超絶空論~反論編~』 (超絶空論番外編)

 それは2人が社会人1年目を終える頃のことだった。場所は都内の某レストラン。小洒落れている割には値段がリーズナブルなその店は、 真保と聡太のような新人社員の懐具合にもぴったりで、何かとよく利用していた。
 2人の料理はもうすでにデザートの段に入っている。 真保はバニラビーンズたっぷりのアイスを口に運びながら自分たちの高校時代を思い返していた。
「やー懐かしいね」
「……何が」
 聡太は目の前にあるチョコレートケーキから顔も上げないまま答えた。真保がこの手の話をするとき、聡太はいつも決まって仏頂面になる。 思わず顔がにやけそうになるが、真保は敢えてすました顔で言った。
「何って。6年前聡太が告白してくれたときのことじゃん。懐かしいよね~」
 途端に聡太がじろりと真保を睨む。
「……お前いい加減にしろよ」
「え、何が」
「惚けんな。俺がその話されんの嫌って分かってて言ってるだろ」
 やぁだ。と真保はおばさんよろしく手を振った。
「からかってるんじゃないよ? ただ"もしも明日で地球が爆発するとしたら? "なんて 例えに頼らないと告白出来ないあの時の聡太が可愛かったなぁと思ってさ」
「そんなの尚更悪いわっ」
 可愛いというのは男にとって業腹なことらしい、というのは真保も昔読んだティーン誌で見たことがある気がする。
「ごめんって。でもお陰でこうして今恋人として食事できてるわけじゃん」
「まぁそりゃそうだけど……。やっぱり昔のことを掘り返されるのは結構恥ずかしいぞ」
「まぁ、そうだろうね。たださーあたし最近あの告白に思うところがあるのよ。なんていうか、地球最後の日に告白するのって結構身勝手だなーって。だって言ってすっきりするのって言った本人だけじゃない?」
「……どういうことだ?」
「告白される側の心理を無視してるってこと。もしあたしが本当に地球最後の日にあんたに告白されたら多分"何でもっと早く言わなかったのよ"って思うか"何でもっと早く気付かなかったのよ"って自分を責めるかすると思うのよ」
「……それは、ごめん……というか考えが足りなかったな、俺」
 珍しく本気で聡太が萎れだしたので、真保は慌てて訂正する。
「あっ……だからね、責めてるワケじゃなくて……! その~」
「フォローせんでいいって。真保の言うことも一理あるし……」
「えっ……違うの! そういうことが言いたかったんじゃないの! ごめん! あたしが悪かった! 意地悪言った! あたしは、その……プ、プロポーズのときは超絶空論に頼らないで言ってね~って言いたかっただけなの!」
 萎れかけていた聡太が顔を上げた。あれ? あたし何か変なこと言った? 思い返してみて――真保は真っ赤に煮立っ た。
「お前それ……」
「ぎゃ―――――――――――――っ! 何 言ったあたし――――――――――っ!?」
「ちょ……うるさい! 店内だぞ! ていうかコラ席から立つな!」
「もーやだ恥ずかしい――――――!」
「ったく止めろこのバカっ!」
 無理矢理手で口を塞がれ席に座らされる。聡太は怪訝な顔でこちらを見てくる店員と客に頭を下げたあと、真保の頭にデコピンを喰らわした。
「このバカっ!  お前の叫び声が俺は一番恥ずかしいわっ」
「ご……ごめん」
「ていうかお前、その超絶空論ってなんだよ。お前結構ネーミングセンスねーよな」
「な……っ!? う、うるさい!」
「まさかあの告白にそんな名前が付けられていたなんてな。想像だにしなかったよ」
 聡太はにやにや笑いを浮かべながらからかってくる。 形勢逆転。くそう! これはさっき散々からかったあ たしへの当て付けか!?
 唸る真保に聡太はまぁいいさ、と微かに笑った。
「俺だって6年前から少しは成長したんだ。今日はその"超絶空論"とやらには頼ったりしないよ」
 意味が分からず聡太を見つめると、少し赤い顔で「あんまりこっち見んな」と横を向かれた。
 その表情は確かに6年前の聡太よりは少し大人びているように見えた。
< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop