黄昏時に恋をして
 結婚披露宴が終わった帰り道。程よいアルコールと、履き慣れないヒールのせいでゆっくりゆっくり歩いていた。
「上尾さん」
 私を呼ぶ声に、足を止めた。振り向かなくてもすぐに誰だかわかった。
「帰り道、送らせてください」
 そう言うと、私の分の引出物の紙袋をひょいと持った。
「だ、大丈夫です」
 強がって、引き離す。でも、隣に並んだ戸田さんは、紙袋を持ったまま。
「んー。じゃあ、なんて言えばいいのか……」
 少し困惑した表情を見せると、少しの間、黙り込んだ。その間に、失礼します……と、逃げることもできた。でも、それができないのは、ふられても戸田さんが好きだからだった。
「あ、そうだ。酔い醒ましに歩きませんか? 家まで送られるのが迷惑なら、それで」
 思い出したように戸田さんが言った。かわいらしい顔で、優しく微笑みながら。かわいいは、罪だ。
「迷惑なんかじゃ……」
 嬉しいくせに。しぶしぶ承諾した。
「ありがとうございます。やっと話ができます」
 戸田さん、きっと無理をしてくれている。私の気持ちを知っているから、気持ちに応えられなくても、話くらいはしてあげようって。その優しさに泣きそうになるのをこらえた。
「ずっと話をしたいと思っていました」
 私の家をめざして、肩を並べてゆっくりと歩く。身長差がないから、ふいに横を向くとすぐに視線がぶつかってしまうから、危険だ。話は、聞かなくてもわかる。私を傷つけないように、優しくごめんなさいを言うつもりなんだろう。
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