黄昏時に恋をして
急接近
 晴れて戸田さんの彼女になれたけれど、休みは合わないし、お互いに敬語を使っていたし、よそよそしい感じだった。会えるのは、食堂でだけ。私が競馬場に足を運ぶことがあっても、レースを観て帰るだけ。それでも、私にとっては彼氏であって、充分幸せだった。
 年末の有馬記念に戸田さんが出た時も、わざわざ応援に駆けつけた。勝つことはできなかったけれど、無事にレースを終えてくれただけで良かった。
 食堂も冬休みに入り、時間を持て余していた。とくにすることもなくゴロゴロとしていると、インターホンがなった。この時期だから、実家から何か送ってくれたのかもしれない、とドアを開けた。
「こんにちは」
 驚きのあまり、開けたドアを閉めた。ノーメイクで、髪もバサバサ。こんな姿を戸田さんに見せたくない! 次は、ドンドンとドアを叩く音。ほんの少し、ドアを開けた。
「ごめんなさい。急に来て」
「こちらこそ。ドアを閉めてしまって」
 顔が半分見えるくらいだけの隙間で、ふたりは話した。
「散らかっていて……」
「ああ。気にしないから大丈夫です」
「いえ。散らかっているのは、顔の方で」
「えっ? どういうこと?」
 隙間から見える戸田さんの目が、大きく見開いている。男性にはわからないだろう、この気持ち。会いたいけれど、会えない。
「少し、準備をしてから」
「じゃあ、待っていてもいいですか?」
 寒い中、外で待たせるわけにもいかず、玄関へと招き入れた。部屋はわりと綺麗にしていたが、顔が散々だった。
「散らかっていないじゃないですか?」
「部屋は、ね」
「いや、そうじゃなくて」
 大きな目で、私をじっとみつめた。狭い玄関でふたり、息が触れ合うくらいの近さで。
「そのままでも上尾さん、かわいいです」
 頬を真っ赤に染めながらそう言った。抱きしめたいくらい、かわいらしい顔。私がおかしな気を起こしそうで、慌てて部屋に入った。
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