黄昏時に恋をして
「多香子さん、って呼んでもいいですか?」
「では私も、大夢くんって呼びます」
 帰りの車の中。名前で呼び合うことを決めたふたりは、妙に照れ臭くなって、無言が続いた。
「多香子さん、あの……」
 大夢くんが急に切り出した。
「自分は、有馬記念を勝ちたいと思っています」
「ごめんなさい。私……競馬のことは詳しくなくて。有馬記念がGⅠレースであることくらいしか」
「いいんです。それくらいの認識で」
 私の家が近づいてきて、大夢くんが車を止めると、綺麗な目で私を真っ直ぐにみつめた。
「自分は、有馬記念を勝ったら多香子さんにプロポーズしたいと思っています」
 付き合って、まだ日も浅いのに。大夢くんが私との将来を真剣に考えてくれていることに驚いた。
「それでも待っていてくれますか?」
 私だけの想いの方が強いと思っていたから、そんなふうに言ってもらえるなんて、思いもよらなかった。
「私なんかでよければ、何十年でも待ちます」
「ありがとう」
 私の返事に、大夢くんは安心したように笑った。

 
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