冬海
タイトル未編集
1
冬海
レイは、無性に海が見たかった。
あの海。
ヨシアと出会った、あの海へ向かった。
湘南電車に飛び乗って、扉にもたれ掛かって。
イヤホンから、ふたりの思い出の曲をリピートさせ続けた。
窓外の流れる景色が、ぼやけて見える理由が最初は解らなかった。まさか自分の目が、涙で潤んでいるからだなんて・・・
問いただせば良かったかもしれないけど、そんな勇気も余裕もなかった。
なぜって、それがあまりに突然過ぎたから。
昼下がりの公園通り。
自分の最愛の彼氏であるはずのヨシアが、自分が最も大切な親友だと信じていたマリアの肩を大切な宝石でも扱うように、優しく抱き寄せて歩いていて来たのだから!
心臓がバクバクして爆発しそうだった。
どうして?どうして?どうして?
ヨシアは、もしかしたら気づいているかもしれない。と思いながら・・・
わたしは、思いっきり真っ直ぐ遠くを見ながら、すれ違った。
それが、わたしに思いつくただひとつの自分の取るべき態度だった。
そして、そのまま、こうして海へ向かった。
真冬を少し過ぎたこの時期、平日の夕方近くのその海は閑散としていた。
ヨシアとマリアは、どうしてあんなに楽しそうな顔で笑ってたんだろう?
わたしは、どうして、ひとりでこんな場所に来てるんだろう?
もしかしたら、錯覚?人違いだったのかもしれない。
あんなことが、現実に起こるなんて、ちょっとドラマチックすぎる。
わたしは、あれはホントに現実だったのだろうか?と何度も二人とすれ違ったシーンをリピートさせながら、灰色の砂浜を裸足で淡々と歩いていた。
割れたガラスの欠片が、夕日の波打ち際でキラキラ光っている。
ちょっと踏んでみようかな?
痛みでこの悪夢から覚めるかもしれない!
そんなことを考えていた時、メールの着メロが響いた。
「ゴメンな!俺がぜんぶ悪いんだ。マリアは悪くない。許せなんて云えないけど、後戻り出来ないから。ゴメンなレイ」
あぁ・・・やっぱり。あれは夢じゃなかったんだ。
少し、楽になった。
そして、悲しくなった。
苦しくなった。
歩く理由がなくなった気がして、近くの岸壁に登って、腰掛けて、一服した。
「ここ寒くない?」
誰かが後ろから不意に声をかけてきた。
ちょっと年上っぽい男だった。
「気にしないでください。少し寒いほうがいいんで・・・」
わたしはそう云って、次のタバコに火をつけた。
「まさかと思うけど、もしかして、誰かとここで待ち合わせしてる?」
レイの50センチ左隣へ、その男は腰掛けた。
「今、話したくないんで・・・」
レイは、暗くなりはじめた空へ向かって煙を吐いた。
「そっか」
そう云って、その彼もタバコをふかし始めた。
1本2本・・・。数分間隔で、ただタバコの吸い殻だけが増え続けた。
ふたりとも無言のまま、だた夕まずめの海に向かって座っていた。
「君はまだ知らないかもしれないけど、男っていうのはさぁ、ひとりで寂しそうな顔をしている女をそのままほっぽっておけない生き物なんだよ・・・」
4本目のタバコに火をつけながら、その男は云った。
「わたし、寂しいつもりないんだけど!」
レイも4本目のタバコに火をつけた。
「そっか・・・」
「ねぇ、せっかくだけど、早くどっか行ってくれないかなぁ!」
「そんなに、嫌われたんじゃしょうがないかぁ・・・」
「もう、わたし・・・我慢も限界!」
「君のような魅力的な女は、我慢なんてする必要ないさ!」
「おねがい、早く消えて、じゃないとわたし・・・」
「じゃないと、わたし?」
「おねがい・・・今夜はずっとそばにいて!って云っちゃいそうだから・・」
レイは、無性に海が見たかった。
あの海。
ヨシアと出会った、あの海へ向かった。
湘南電車に飛び乗って、扉にもたれ掛かって。
イヤホンから、ふたりの思い出の曲をリピートさせ続けた。
窓外の流れる景色が、ぼやけて見える理由が最初は解らなかった。まさか自分の目が、涙で潤んでいるからだなんて・・・
問いただせば良かったかもしれないけど、そんな勇気も余裕もなかった。
なぜって、それがあまりに突然過ぎたから。
昼下がりの公園通り。
自分の最愛の彼氏であるはずのヨシアが、自分が最も大切な親友だと信じていたマリアの肩を大切な宝石でも扱うように、優しく抱き寄せて歩いていて来たのだから!
心臓がバクバクして爆発しそうだった。
どうして?どうして?どうして?
ヨシアは、もしかしたら気づいているかもしれない。と思いながら・・・
わたしは、思いっきり真っ直ぐ遠くを見ながら、すれ違った。
それが、わたしに思いつくただひとつの自分の取るべき態度だった。
そして、そのまま、こうして海へ向かった。
真冬を少し過ぎたこの時期、平日の夕方近くのその海は閑散としていた。
ヨシアとマリアは、どうしてあんなに楽しそうな顔で笑ってたんだろう?
わたしは、どうして、ひとりでこんな場所に来てるんだろう?
もしかしたら、錯覚?人違いだったのかもしれない。
あんなことが、現実に起こるなんて、ちょっとドラマチックすぎる。
わたしは、あれはホントに現実だったのだろうか?と何度も二人とすれ違ったシーンをリピートさせながら、灰色の砂浜を裸足で淡々と歩いていた。
割れたガラスの欠片が、夕日の波打ち際でキラキラ光っている。
ちょっと踏んでみようかな?
痛みでこの悪夢から覚めるかもしれない!
そんなことを考えていた時、メールの着メロが響いた。
「ゴメンな!俺がぜんぶ悪いんだ。マリアは悪くない。許せなんて云えないけど、後戻り出来ないから。ゴメンなレイ」
あぁ・・・やっぱり。あれは夢じゃなかったんだ。
少し、楽になった。
そして、悲しくなった。
苦しくなった。
歩く理由がなくなった気がして、近くの岸壁に登って、腰掛けて、一服した。
「ここ寒くない?」
誰かが後ろから不意に声をかけてきた。
ちょっと年上っぽい男だった。
「気にしないでください。少し寒いほうがいいんで・・・」
わたしはそう云って、次のタバコに火をつけた。
「まさかと思うけど、もしかして、誰かとここで待ち合わせしてる?」
レイの50センチ左隣へ、その男は腰掛けた。
「今、話したくないんで・・・」
レイは、暗くなりはじめた空へ向かって煙を吐いた。
「そっか」
そう云って、その彼もタバコをふかし始めた。
1本2本・・・。数分間隔で、ただタバコの吸い殻だけが増え続けた。
ふたりとも無言のまま、だた夕まずめの海に向かって座っていた。
「君はまだ知らないかもしれないけど、男っていうのはさぁ、ひとりで寂しそうな顔をしている女をそのままほっぽっておけない生き物なんだよ・・・」
4本目のタバコに火をつけながら、その男は云った。
「わたし、寂しいつもりないんだけど!」
レイも4本目のタバコに火をつけた。
「そっか・・・」
「ねぇ、せっかくだけど、早くどっか行ってくれないかなぁ!」
「そんなに、嫌われたんじゃしょうがないかぁ・・・」
「もう、わたし・・・我慢も限界!」
「君のような魅力的な女は、我慢なんてする必要ないさ!」
「おねがい、早く消えて、じゃないとわたし・・・」
「じゃないと、わたし?」
「おねがい・・・今夜はずっとそばにいて!って云っちゃいそうだから・・」