齧り付いて、内出血
第1部 Ⅰ.火が点いたのは煙草じゃなくて
「傷害罪ですよ。」
静まり返った部屋の中、彼の無機質な声を聞いて無性に泣き出したくなった。
悲しくもないのに、おかしいの。
「人の手を吸ったり噛んだり…キスマークつけると傷害罪。」
ソファにだらりと横になって、この男は、片手で器用に開いた文庫本から目を離さずに淡々と言った。
何も言わない私を一瞥してから
「あーあー、また派手にやってくれちゃって。見て俺の手、お前の涎でべちゃべちゃ。」
今度はからかうように視線を投げかけてきた。
この男の手はもろに私の好みらしくて2人でいるとつい齧り付いてしまう。
はた目から見れば‘つい’なんて軽い言葉では済まされないような行為だっていう自覚はちゃんとあるんだ。
この変態的衝動、いい加減どうにかしてほしい。
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