齧り付いて、内出血
「なんで、泣くの。」
右手の薬指にきらりと光るシルバーのリング。
遊び心のないシンプルなそれは無愛想なのではなくて、いつでも常につけていられるためのデザイン。
――恋人の指輪。
『泣く?』
私が、泣くとでも?
見て、涙なんて流してないから。
「勘違いか、焦った…。」
泣けたらいいのに、いっそ泣けたらいいのに。
そうすれば頭の良い久世は全部気づいて、静かに消えてくれるのに。
こんな時でも感情をあらわせない頑固さが嫌い。
「それ、欲しいー?」
え?
そんなこと、一言も言ってないのに。
あまりに驚いて反射的に顔をあげてしまった。
『違う、私アクセサリーあんまりつけないから。』
「なんだ、違うのか。」
『…。』
それだけ。深くは聞いてこない。