齧り付いて、内出血

「下、向くな。」

『や、あ…』

「や、じゃねーの。顔、俺に見せるの。」


腰を支えていた手でぐいと顎を掴まれて、私の顔は久世の前にオープンになってしまった。

久世の薄茶の瞳とぶつかって、どきりとする自分の胸に、私は傷つく。


彼氏ができたこともないのに、キスも、おまけにセックスまでしたことあるなんて、どう考えても王道から外れてる。

こんなの普通じゃない。


「何、考えてんの。ひょっとして余裕、とか?」

『ち、がう。』

「へえ。」

『ちがうってば――ん、…』

「俺のことだけ考えてろ。」


こうやって、この関係が正しいのかっていう大事なことを考えるのを後回しにしてしまう。

彼女がいるのかとか、考えてちくりちくりと胸を刺す痛みには気づかないふりをし続けている。

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