苦恋症候群
「ふ~おわったーっ」
椅子に座ったまま思いきり伸びをしたら、思わずそんな言葉が漏れた。
私の大きすぎる独り言に、向かいの席の寺沢課長があははと笑う。
「森下さん、ずいぶん集中してたね」
「自振の設定してたんですよ~。最近多くて」
「まあ、新生活が始まって公共料金とか税金を新しく口座引き落としにする人、この時期結構いるからねぇ」
ニコニコとそう言う課長は、失礼だけどいつ見ても顔に『のほほ~ん』と書いてあるようだ。
動きものんびり、話し方ものんびり。それで『課長』なのは、仕事に関しては驚くほど早くて正確だから。
「やっぱり全店分ともなると、自振依頼書の量もかなりありますよね」
「そうだなぁ。まあ最近じゃわざわざ書類を書かなくてもキャッシュカードの暗証番号なんかで引き落としの設定できる企業も増えてるし、今後だんだん減っていくのかもね」
「そうですね」
トントンとデスクの上で設定済の依頼書の端を揃え、各支店の分ごとにクリップで留めた。
設定をするのは事務部でも、依頼書自体の保管は各支店で行う。後ほどメール便で送るために、支店宛の送達簿もまとめてデスクに置いた。