苦恋症候群
「……いた」



銀色の重たい扉を押し開けた瞬間、前方に見えた背中に思わずつぶやいた。

数歩近づいたところで、手すりに寄りかかっていた人物もようやくこちらを振り返る。



「森下さん、お疲れさまです」

「お疲れさま、三木くん」



三木くんは手すりにもたれながら、これまたコンビニで買ったようなエクレアを頬ばっていた。

やっぱり甘いもの似合わないなあ、と内心笑いを堪えながら、私も彼の1メートル離れたところに立つ。

そしてゴソゴソ、袋の中を探った。



「三木くん、どーぞ」



コン、と私と彼との間にある手すりの上に置いたのは、先ほどコンビニで買っておいたコーヒーだ。

なんとなく、今日は会いそうだなって思っていたら、やっぱり会った。

それを持ち上げて、三木くんが「どーもです」とお礼を口にする。

それからすぐに、今度は彼の方から手を伸ばしてきた。



「森下さん、どーぞ。エクレアは好きですか?」

「……好き。ありがとう」



差し出されたそれを受け取り、笑みを浮かべてお礼を返す。

そして各々、また自然と前を向いた。
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