苦恋症候群
「え、あ、ありがとう……」
どこか不意をつかれたような顔をしながら、それでも安心したように小さく笑った、森下さんを見て。
そのときどうしてか、なんとなく、この人に意地悪をしたくなったのだ。
今まで関わりはなかったけど、ここに来る前に深田さんから「同期がいるからよろしくね」と、名前だけは聞いていた人。
鎖骨あたりまである、内巻きのこげ茶色の髪。小柄で童顔で、そして二重のくっきりしたタレ目がちな瞳。その人に不安げに見つめられたら、どうしてか、自分の中の加虐心がそそられた。
だから、直前の会話では『どっかの誰かと』なんて言い方をして、相手が真柴課長だと気づいていない風を装ったくせに……俺は、“それ”を口にした。
「……総務企画部の、真柴課長って。たしか奥さんいますよね」
俺のつぶやきに目に見えて動揺している森下さんを見て、内心小さく笑う。
ああ、自分はやっぱり性格悪いんだなと、改めて自覚しながら。あくまで感情を表には出さず、言葉を紡いだ。
どこか不意をつかれたような顔をしながら、それでも安心したように小さく笑った、森下さんを見て。
そのときどうしてか、なんとなく、この人に意地悪をしたくなったのだ。
今まで関わりはなかったけど、ここに来る前に深田さんから「同期がいるからよろしくね」と、名前だけは聞いていた人。
鎖骨あたりまである、内巻きのこげ茶色の髪。小柄で童顔で、そして二重のくっきりしたタレ目がちな瞳。その人に不安げに見つめられたら、どうしてか、自分の中の加虐心がそそられた。
だから、直前の会話では『どっかの誰かと』なんて言い方をして、相手が真柴課長だと気づいていない風を装ったくせに……俺は、“それ”を口にした。
「……総務企画部の、真柴課長って。たしか奥さんいますよね」
俺のつぶやきに目に見えて動揺している森下さんを見て、内心小さく笑う。
ああ、自分はやっぱり性格悪いんだなと、改めて自覚しながら。あくまで感情を表には出さず、言葉を紡いだ。