苦恋症候群
森下さんのことは、“どうでもいい”はずだった。

だけどあの日以来、何かと俺たちは関わることが多くて。

……自分の中で、“ただの先輩”から“好ましい先輩”に意識が変わったのも、また事実で。


あのひとはいつも一生懸命で、いい意味で予想を裏切ってくれるから、おもしろい。

群れることが苦手なはずなのに、屋上での時間もわりと心地良く思えてしまっている自分がいることも不思議だ。


だけど、なんとなく……いやな、感じがする。

自分のデスクで書類と向き合いながら、ふと、持っているボールペンに力が入った。

ただの同僚にしては、今の彼女と俺は近づきすぎな気がする。

今まであまり深く人と関わらないようにしてきたから、適度な距離感がわからない。


自分で不倫を清算したあの夜、必死に堪えようとしながらも涙を流していた彼女。

それを見てから、何か……自分の中で、森下さんに対する見方が変わってしまった気がしていた。
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