苦恋症候群
「そ、」

「っくしゅ!」



突然この場に割り込んできたくしゃみに、ピタリと動きを止める。

一瞬気が削がれたその隙に、加山主任が脱兎のごとく目の前からいなくなった。

もうその背中を目で追うことも億劫で、ただ深く、ため息を吐く。


そして壁の向こう、屋上に続く階段の方へ、ひょいと顔を出した。



「ありがとうございます。人として言ってはいけないことを言うところでした」

「そ、それはよかったです……」



階段を下りきったところでしゃがみ込んでいたのは、やはりと言うべきか、気まずそうな表情をした森下さんで。

膝を抱えて小さくなったまま、うかがうように俺を見上げる。



「加山主任って、噂には聞いてたけどあそこまで嫌な奴なんだ」

「そうですよ。宇宙人っぽいでしょう」

「宇宙人って……」



苦笑する森下さんの横を通り、どかりと階段の1番下に腰を下ろした。

一瞬迷ってる風だったからぺちぺち自分の横を叩いたら、おずおずと森下さんも隣へと座る。
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